コンドロイチンの真実
このコーナーでは、真贋様々な情報が飛び交っているコンドロイチンについての真実を、最新の研究成果から科学に基づいた事実をまとめていきたいと思います。
はじめに、コンドロイチンとは何でしょうか? 少し復習をしてみましょう。
1、コンドロイチンの正式名は、「コンドロイチン硫酸」です。
2、コンドロイチン硫酸は、「糖鎖」である。
3、コンドロイチン硫酸は、軟骨に多く含まれるが、生体のほぼあらゆる部分に存在している。
4、コンドロイチン硫酸は、ヒトの消化器官が出す酵素では分解できない。
5、コンドロイチン硫酸は、グルクロン酸と硫酸化されたN-アセチルガラクトサミンとが交互に結合して繋がった、鎖のような形をしている。
6、コンドロイチン硫酸は、動物に特有の成分で植物には無い。
7、生体内ではコンドロイチン硫酸はタンパク質と結合して存在し、これを学術的にはプロテオグリカンと呼ぶ。
8、コンドロイチン硫酸は通常、分子量が数万~十数万の高分子物質である。
余談 細胞試験の結果は真実か???
様々な薬品や食品成分の効果効能を検証するために、細胞試験が実施されています。
培養細胞に検査したい成分を添加し培養し、遺伝子発現の変化や産生される物質量を分析し、その成分にどのような効果があるか比較的簡単にわかります。
当社研究所でも有効性の検証に利用しています。
実際に、ポリフェノール、脂肪酸、糖質、糖タンパク、コラーゲン、血液成分、様々な抽出エキス、・・・などなど、を用いた細胞試験の結果がネット上でも見受けられます。
よく見るのが、「細胞試験で○○エキスがIL-1βを減少させた、よって○○エキスはアレルギーを改善する」とか、「細胞試験で○○ポリフェノールの抗酸化作用を確認、よって○○ポリフェノールはアンチエイジングに有効」とか、「細胞試験で○○グリカンはヒアルロン酸の産生を促進した、よって○○グリカンは肌の老化を防ぐ」などなどです。
しかし、注意してください。
これらの試験結果自体は正しいのかも知れませんが、果たしてこれらを食べたとき(経口投与)に同じ効果が得られるのかの証明には全くなっておりません。
それは、ドラッグデリバリー(体内動態)を無視しているからです。
細胞試験では、シャーレ上の液体中で成分が直接的に細胞に接触することができます。
しかし、その成分を食べたときに、口から入った成分が細胞に接触することができるでしょうか?
口から肛門まで続く消化器官から体内の細胞に届けられるためには、必ず血液中に入る必要があります。血液中に入らなければ、どんなに細胞試験で素晴らしい効果があったとしても何の意味も無いのです。(注射するしかありません。)
ネット上での細胞試験の結果を見る時には、必ずその成分が消化管から吸収されるかどうかをセットで確認してください。
第0章 コンドロイチンを飲んだら軟骨に届けられる???
インターネット上には多くの間違った情報があります。最近、某製品のPRページで、「プロテオグリカンを飲んで、その成分が軟骨に届けられます!」という、おそろしく非科学的なものがありました。
以前、ある著名な研究者がサプリメントの効果効能に懐疑的な発言をしており、「髪の毛を食べたら髪の毛が生えるのか?(そんなはずは無いでしょう。)」と言っておりました。
言葉の意味としては全く正しいもので、髪の毛を食べたところで、それがそのまま髪の毛にはなりません。 しかしながら、この科学者は大きな勘違いをしております。そもそも、サプリメント(食品成分)とは、髪の毛を食べる=髪の毛が生える、皮を食べる=皮膚になる、目玉を食べる=目玉になる、などどいうレベルのものではまったくありません。
皆さまもお気づきを思いますが、目玉を食べて目玉が出来たら、再生医療なんか必要ありません(笑)。
なぜそんなバカげた話しがでてくるのかと言いますと、先の科学者を含めみんなが「消化と吸収」ということを忘れてしまっているからです。
生き物はすべて、食べたものを消化し、分子サイズに小さくしてから吸収し、体内の各器官に送りそこで利用します。
小さくしなければ、そもそも血管を通じて体の隅々まで届けることが出来ません。生物は吸収した分子を再構築することによって、様々な機能を持った、自身に必要な分子を作り出すことができるのです。
レゴブロックは小さければ小さいほど様々な形を作ることが出来るのと同じです。
例えば、生体を構成する原子は金属類を除けば、わずか6種類(水素H、窒素N、炭素C、酸素O、リンP、イオウS)程度しかありません。しかし、そこから作られる分子の種類は原子の順列組み合わせによって無限に作ることができます。
そして、一般的な分子も十分に小さなサイズなので、その順列組み合わせによって、原理的には無限の素材を作り出せます。
でも、一度、筋肉や骨などになってしまったもの(高分子物質)は、もう一度バラバラに小さくしなければ、再構築できません。
すなわち、高分子物質は消化吸収というプロセスを経て、はじめて再利用することができるようになるのです。
(再利用とは、食べたものがエネルギーとなったり、身体を形作ったりすることです。)
では、食品の大きさとは何でしょうか?
例えば、ご飯の最小単位は1粒の米ですが、そのままでは吸収されません。そこで、まず歯で物理的に小さくかみ砕きます。次に、唾液のアミラーゼがお米に含まれるデンプンを消化することで、化学的に水溶性のより小さな分子、マルトースやデキストリンに変換します。
分子レベルといっても、高分子から低分子までその大きさはさまざまです。
分子量が数百万のタンパク質から、数百程度の単糖やアミノ酸、数十のミネラルまであります。
ちなみに、水の分子量はわずか18です。
ここで、胃腸から吸収される分子のサイズはどのくらいでしょうか?
一概には言えませんがおおよそ数千以下で、万を超えるサイズのものは特殊な形態を除いて吸収されません。
まわりくどい話しとなりましたが、高分子のコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、プロテオグリカンといった大きな分子サイズの物質は、ヒトの出す消化酵素では消化も吸収もされません。
追記
髪の毛はケラチンというタンパク質ですが、ヒトの消化器官ではこれを消化するケラチナーゼは分泌されていません。したがって、髪の毛はほとんど消化吸収されません。
食品成分とは突き詰めるとすべて化学物質で、様々な分子の集合体です。これらの分子はある特徴から、いくつかの種類に分けられます。
その大分類が、タンパク質、脂質、糖質、無機塩(ミネラル)、で、他に核酸があります。
この中で、互換性のあるものと、そうではないものがあります。タンパク質は糖質に、糖質は脂質に、というように変換されることが出来ます。
しかしながら、互換性の無いものは必須栄養素であって、必ず食べて補給しなければなりません。
よくご存じの、必須アミノ酸、ある種のビタミン、ミネラル類などは互換性の無いものの代表です。
第1章 これまでのコンドロイチン硫酸
コンドロイチンの有効性については、多数の論文があります。例えば、2011年にアメリカ国立衛生研究所(NIH)がまとめた、NIH Public AccessAuthor Manuscript Osteoarthritis Cartilage. などがあります。
この論文では、コンドロイチンの有効性に対しては否定されています。
この論文にかかわらず、コンドロイチンの有効性は否定されているものが多いのが事実です。
健康食品の安全性と有効性情報 (国立栄養・健康研究所)にも、「効果がある論拠は見当たらない。」とされています。
そのため、これまでは「コンドロイチンは飲んでも意味がない」という見方が生まれており、これまで発表された科学的論文からは当然であると考えます。
ではなぜ、このような結果となってしまっているのでしょうか?
その答えは、すべて、吸収されないコンドロイチンを用いた研究であったからです。
コンドロイチンは高分子であり、ヒトの消化酵素では分解されない為、腸管から吸収されないのです。
吸収されないものを飲んでも効果が無いのは当然です。
頭痛薬を飲んでも、それが吸収されなければ効果が無いのは当然ですよね!
こんな当然のことが、なぜ長い間、科学者達に無視されてきたのでしょうか?
実は、無視されたわけではなく、「出来なかったから、それしか選択肢が無かった」というのが真実かもしれません。
良識のある科学者達は、もちろんこれを何とかしようとしましたが、できませんでした。
コンドロイチン、ヒアルロン酸のようなグリコサミノグリカンと呼ばれる一群の糖鎖は、ヒトの消化器官が出す消化酵素では分解されないのですが、細菌などの微生物にはこれを消化するコンドロイチナーゼという酵素を持っているものがあります。
この細菌のコンドロイチナーゼを使って、低分子化する技術は実験室では広く行われていました。しかし、この酵素を製造することは非常にコストがかかり、とても工業生産に用いる事ができるものではありませんでした。
また、酸分解法や光触媒を用いる方法なども研究されましたが、様々な理由からやはり工業化はできませんでした。
このように、コンドロイチンの低分子化は困難を極めたため、コンドロイチンを低分子化した物質(コンドロイチン硫酸オリゴ糖)をヒトに投与するなどということは夢のような話しでした。
コンドロイチン硫酸オリゴ糖は、研究試薬としては販売されていましたが、わずか1mgで16000円もするほど高価なものだったので、とてもヒトに投与する研究などできなかったのです。
たとえば、ヒトに1日10mgを1か月間投与する研究をするとすれば、10mg×30日×16000円=4,800,000円 となります。これを投与群とプラセボ群各10人、合計20人で行った場合は、試薬代だけで9600万円もの研究費が必要となります。
また、仮に何とか資金を集めて研究開発ができたとしても、量産できなければ事業としては成り立ちません。
これが、コンドロイチンの有効性の研究が進まず、とりあえず吸収されない高分子コンドロイチンを投与した研究をせざるを得なかった大きな理由なのです。
そしてもう一つ重要なのは、「コンドロイチンは何となく効果がありそうな成分」であった事も、とりあえず吸収はされなくとも有効性は示されるのではないか?と考えられたことです。
生物の軟骨組織は何とも神秘的な組織であり、サメやクジラ、牛などの軟骨から抽出される、非常にネバネバした物質は何らかの有効性があるに違いない、と考えさせられるには、十分魅力的な物質であったのです。
さらに、近年では高分子のコンドロイチン硫酸を用いた細胞レベルでの試験も行われるようになり、分析技術の進歩とあわせて、細胞における様々な有効性が示されることも、コンドロイチン硫酸の研究を後押ししました。
かくして、コンドロイチン硫酸の研究には各国で、官民あわせ莫大な研究費が投入されたのですが、冒頭で述べたように白とも黒ともつかない曖昧な結果で終わったのです。
第2章 吸収されるコンドロイチン硫酸:コンドロイチン硫酸オリゴ糖の登場
よく「細胞試験の結果で効果があった」というデータが広告などで記載されている事があります。確かにその結果自体は間違いではないのかも知れませんが、よく考えてみてください。ヒトの身体では、何らかの成分を細胞に届けるためには、消化・吸収というプロセスが必要です。どんなに素晴らしい成分であっても、口から入って細胞へ届けるためには、消化・吸収されるものでなければなりません。
医薬品ではこのプロセスを極めて厳密に設計しています。(吸収動態といいます)飲んで効果を発揮させるには、その成分が血液中に取り込まれなければなりません。飲んでもダメな成分は、静脈注射などで直接血液中へ送り込む方法をとります。
一方、サプリメントはどうでしょうか? 冒頭で述べたように、細胞試験で効果があったものであっても、吸収動態まで記載しているものは見当たりません。実験室では、細胞に直接成分をふりかけることが出来るので、吸収動態を気にする必要はありません。しかしながら、飲んで効果を発揮させるには、「その成分が吸収されるのかどうか」を確認しなければなりません。
仮に、細胞試験で素晴らしい効果があったとしても、飲んで吸収されなければ、その成分には何の意味もありません。サプリメントは注射するわけにはいかないのですから。
動物試験やヒト臨床試験においても、同じことが言えます。たしかに、ヒト臨床試験で有効性が認められたのなら、吸収されようがされまいが、どうでも良いのではないか、という意見もあります。しかし、それでは有効性のメカニズムを全く説明できません。
かくして、健康食品・機能性表示食品・特定保健用食品を問わず、市場において吸収性をきちんと研究しているものは、残念ながら見たことがありません。(当社製品を除いて)
さて、2006年より私たちの研究チームは、吸収されない高分子物質であるコンドロイチン硫酸を何とか低分子化し、吸収されるコンドロイチン硫酸オリゴ糖にできないか、という課題に取り組み始めました。
難消化性高分子糖鎖であっても、化学的に酸加水分解されることはすでにわかっていました。例えば、塩酸で処理すれば低分子化するのです。しかしながら、この方法ではコンドロイチン硫酸を構成する硫酸基が脱落してしまい上手く行きませんでした。
そこで我々は、水の性質を利用した分解方法をトライしてみることとしました。水はとても不思議な物質で、高温高圧条件では固体でも液体でも気体でもない超臨界状態となります。この状態の水は、酸の性質が強くなったり、油とも混ざるようになります。この高温高圧状態の中に高分子コンドロイチン硫酸を入れてやれば、分解できるのではないか? との発想で実験を重ねた結果、見事に低分子化反応が起こっていました。
しかも、使っているのは水だけなので、室温大気圧に戻してやれば良いだけです。つまり、水に高分子コンドロイチン硫酸を入れてから超臨界状態にしてから冷やしてやれば、それだけでコンドロイチン硫酸オリゴ糖の水溶液が出来上がっていたのです!
さらに、詳細な構造解析を行ってみると、塩酸加水分解では構造が壊れてしまっていたような事も起こっていませんでした。
この低分子化技術は、現在はマイクロ化学プロセス処理と呼んでおり、2013年に特許も取得しました。とは言え、実験的にできたとしても工業生産を行う事は簡単ではなく、まだまだ長い技術開発の時間がかかりました。
世界で初めて、コンドロイチン硫酸オリゴ糖の工業生産に成功した事で、糖鎖を健康に役立てる事ができる本当の時代が来たのだと思います。
なぜなら、コンドロイチン硫酸オリゴ糖は飲んで吸収されるのですから!
丸共バイオフーズでは、「糖質科学と健康長寿を結ぶ」をモットーとして、この素晴らしい成果をぜひ皆様にお届けしたいと考えています。
※医薬品に使用されているコンドロイチン硫酸と、健康食品に使用されているコンドロイチン硫酸に科学的な違いはありません。同じものと考えてよいでしょう。但し、いずれも高分子なので飲んでも吸収されません。
吸収されるコンドロイチン硫酸はコンドロイチン硫酸オリゴ糖だけです。
第3章 コンドロイチン硫酸オリゴ糖は、本当に吸収されているか?
血中コンドロイチン硫酸オリゴ糖の検出への挑戦!!
2018年、NEDOおよび北海道立総合研究機構工業試験場の支援を受けて完成したファインケミカル研究所のマイクロ化学プロセス処理装置によって、いよいよコンドロイチン硫酸オリゴ糖の大量生産がスタートしました。この製造プラントは、世界で初めてコンドロイチン硫酸オリゴ糖の大量生産を可能とした画期的なものでした。これは現在も順調に稼働しております。
一方、研究室では難問に直面していました。すなわち、食べたコンドロイチン硫酸オリゴ糖は本当に吸収されているか? という問いへの証明が完全ではなかったからです。以前の2回に渡るラット反転腸管を用いた試験で、確かに高分子コンドロイチン硫酸は吸収されずコンドロイチン硫酸オリゴ糖は
吸収されていました。しかし、これだけでは、食べたものが吸収されるかどうかの証明にはなりません。
そこで、次にラット食べさせて血液と尿を採取し、分析してみることとしました。その結果、食べさせてから24時間以内の尿中でコンドロイチン硫酸オリゴ糖が検出されました。一方、高分子コンドロイチン硫酸とプロテオグリカン投与群では、尿中にコンドロイチン硫酸は検出されませんでした。
このことは、ひじょうに沢山の情報を与えてくれました。
結果
1,コンドロイチン硫酸オリゴ糖は、経口摂取で血中へ吸収・利用され、余剰分は尿として排出される。
2,高分子コンドロイチン硫酸とプロテオグリカンは、吸収されない。
考察
1,ラットは雑食であるが基本的に草食であるため、大きな盲腸を持ち食物繊維(セルロース)を分解できる腸内細菌叢をもつ。
そのため、高分子コンドロイチン硫酸とプロテオグリカンも盲腸では分解されているはずである。
しかしながら、吸収されていないのは、分解されたものがすぐに腸内細菌に食べられてしまうからである。
2,ということは、コンドロイチン硫酸オリゴ糖であっても、盲腸では分解されて細菌に食べられてしまい、吸収されないはずである。
しかしながら、コンドロイチン硫酸オリゴ糖は尿中に検出される。
このことは、コンドロイチン硫酸オリゴ糖が盲腸よりも胃に近い部分の腸内細菌が非常に少ないか居ない部分(上部消化管)で吸収されていること
を示している。
3,すなわち、ヒトにおいては大腸よりも前に位置する小腸以前で吸収されると考えられる。
(大腸まで行ってしまうと、腸内細菌に食べられてしまう。)
なかなか面白い結果ですね!
そして、我々はいよいよ血液中のコンドロイチン硫酸オリゴ糖の定量にチャレンジしました。
これがものすごく大変でした!
血液中のコンドロイチン硫酸オリゴ糖の検出
血液中のコンドロイチン硫酸またはコンドロイチン硫酸オリゴ糖を分析した過去の論文はいくつかありますが、残念ながらその方法が確立されたものは見当たりませんでした。論文にかかれている方法をそのまま試しても、良い結果が得られないのです。
まず問題は、血中のコンドロイチン硫酸またはコンドロイチン硫酸オリゴ糖の量が極めて微量であること。求められる検出感度は、ng/mL ~ pg/mL (1ミリリットルあたりナノグラム~ピコグラム)のレベルです。
ちなみに、1ng/mLとは、オリンピックプール(水量2,500,000L)に、わずか2.5g(小さじ半分)の物質を溶かした極めて薄い濃度です。
これをどうやって検出するか?
さらに大きな問題は、血液中にはビクニンと呼ばれる糖タンパク質が0.5mg/mLという濃度で多量に存在しており、このビクニンには分子量が6000のコンドロイチン4硫酸鎖が結合している。
そのため、経口投与されたやコンドロイチン硫酸やコンドロイチン硫酸オリゴ糖の血中濃度を測定する場合は、ビクニンのコンドロイチン硫酸を除外して分析しなければなりません。
さてどうするか?
つづく